民法 所有権以外の物権 留置権

学習

今回の議題に挙がる留置権「りゅうちけん」とは、法定担保物権です。
なぁにそれおいちゃん分かんないよぉ、な方に向けて解説。

約定担保物権は覚えていますか?約定なんでお互いの合意によって形成される担保物権です。
担保?ま身代わりみたいなもんです。
物権?そう、排他的支配権です。

約定が法定に変わりました。法定ではお互いの意思の合意なんて関係ありません。
法律が勝手に決めてくれます。

後は留置の言葉通りです。お前のところに留め置くのを許可する。
これは天下国家が決めたことなんで周りにグズグズ言わせねえぞ。
留置権の性格であり性質であります。

第295条 留置権の内容
 
1、 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。

2、 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。


例えばワンちゃんが病気になったので獣医さんに診てもらいました。
法律で言えばワンちゃんは物です。
おかげさまでワンちゃんは快癒しました。獣医さんへの代金を払わなければいけません。

もし払わなかったら?獣医さんはワンちゃんをステイ!できるんですねぇ。


この辺は同時履行の抗弁権とそっくりです。
というかワタクシ復習するまで勘違いしていました。
同時履行を満たさない場合に抗弁権として留置権がある、もんだとばっかり思っていました。
認識として間違ってますんで、同じ勘違いしている方は注意ですよ。


同時履行の抗弁権とは、例えば売買があったとしたら、買い主は金銭の債務者でありますが、物の引渡しを受ける債権者でもあります。
売り主には逆が成立します。

会社同士の取引ならば、月末まとめて払うわ、的な買掛売掛制度が通用するでしょうが、
個人の売買ではツケで払うとはなかなか成立しません。

そこで認められるのが同時履行の抗弁権です。
払うんだから引き渡せ払わないなら引き渡さない。が成立するのです。

第533条 同時履行の抗弁

双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。





じゃあ留置権と何が違うのか。
ワンちゃんで説明を続けましょう。

ワンちゃんの飼い主は、自己の老齢を理由にワンちゃんを譲渡しようと思っていました。
なのでワンちゃんが快癒したら、妹に譲る約束をしていました。

獣医さんは同時履行の抗弁権をもって「引き渡し」という履行の請求を拒む場合、
妹さんに対してワンちゃんのステイ!はできません。
何故なら契約の当事者ではないからです。

しかし留置権によって「引き渡し」という履行の請求を拒むことは可能なのです。
なんたってお上がバックについた、法定担保物権ですから。



ちなみに同時履行の抗弁権の成立要件は判例を踏まえると多岐に渡ります。
ここでは典型例である売買を出しましたが、双方の契約から発生する権利なので、もっと色々な形で同時履行の抗弁権は成立します。

ここでは宅建士試験向けに一つだけ紹介。
大家による建物明け渡し請求権と、賃借人による敷金返還請求権は、同時履行の関係にありません。
明け渡しが先です(判例)


それと留置権は、ワンちゃん(動産)でも不動産でも成立します。
用益権は不動産に対する所有権以外の物権でした、今更ですがそこ注意しましょう。

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留置権者の出来ること

では留置権者が対象物に対して出来ることはなんでしょう?

答え→果実を頂戴すること。

第297条 留置権者による果実の収取

1、 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。

2、 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。




例えばワンちゃんが~はこの場合に説明が難しいので、
例えばニワトリを預かっていて金の卵を産めば、代金の充当にできますね。
まヨード卵光だろうが1パック98円だろうが何でもいいんですが、代金に充当できると規定しています。

留置権者が出来るのは297条と、後は留め置くことだけです。続いての条文を見てみましょう。

第298条 留置権者による留置権の保管等

1、 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。

2、 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。

3、 留置権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。



例えばワンちゃんと血統書付きの犬を配合させてブリーダー仕事をしたら、ワンちゃんは飼い主の弁済なく、飼い主は引き取る請求ができます。

つーかいいかげん犬から離れましょう分かりづらい。
留置物を使用できない、賃貸できない、当然処分行為もできません。

しかも出ました善管注意義務。通常期待される注意をもって保管しなければいけません。
なので目を離したスキにワンちゃんが逃げたら…ノーチャンスです。お、上手いこと言ったと思わない?




第296条 留置権の不可分性

留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。

この条文が分からなかった。
そもそも権利の行使ってなんじゃい?不動産なら住み続けるのが権利か?犬ならワンと鳴くのが権利と言うのか!?

えー全然違います。留め置くことが出来る。を改めて規定しているのです。

使用も利用も処分も出来ません。でも弁済が無い限りひたすら留め置くことができます。
これでどういうことが起こるか?



まぁワンちゃんのままでいいや。そのワンちゃんに財産としての価値があったとします。
飼い主が別の債務の為に、ワンちゃんを獣医さん以外の第三者へ売却しました。

ワンちゃんの所有権は第三者に移りますが、弁済を受けない限り、ワンちゃんを留め置いて占有できるのは獣医サンなのです。

差し押さえも同様です。財産としての価値が認められて、ワンちゃんが差し押さえられたとしましょう。
でも留め置けるのは…獣医サンです。

そして一番最初に戻りましょう。留置権は法定担保物権です。法律が自己の関知しないところで勝手に決めた権利です。


なんか知らんうちに対象物に関して最強の権利を与えられた、のが留置権です。

まよくよく考えてみれば、取引の安全をこれ以上無いくらい分かりやすく条文化してるんですね。
履行がなかったら返さなくていいよ。以上です。


債務者側もちょっとだけ違う手段で対抗できます、以下の条文です。

第301条 担保の供与による留置権の消滅

債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。



手持ち代金が無かったら、身につけてる貴金属でも置いていけば取り戻す請求が出来るんですね。


これもちょっと形を変えて考えれば、取引の安全の一種と分かります。

例えば遠くからわざわざ来たけど財布忘れた!諦めるしかないの?
相手が担保価値を認めてくれれば、別のもの置いていってもいいよ。いかにもありそうな取引の風景です。


留置権の学習はここまで。さぁ次の物権に行きましょう。

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