不動産の物権変動を見てきました。今回が不動産の物権変動の最後になる予定です。
不動産登記は登記で、前回に一部出てきました「不動産登記法」という別の法律がありますので、いずれ別項目を使って説明していきたいと思います。
相続と登記
相続はまだ細かくはやっておりませんので、ごく単純な例を出して紹介したいと思います。
例題
私の祖父が第三者に持っている不動産を譲渡し、死亡しました。
祖父の相続人は父だけです。父は不動産を相続しました。
第三者は登記を備えていません。
果たして不動産の真の所有者は、父でしょうか第三者でしょうか?
何か生々しい?それは気の所為ですよ、ちょっと脚色しただけですから。
では民法
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
相続が開始した段階では、相続人が承継するのでして、
譲渡した第三者が登記をそなえていなければ所有権があるとはみなされず、
相続人に所有権が移ります。なので父の勝ち
だったんです自動的に。
平成30年7月に民法の相続部分が改正されました。
この段階で相続に深入りはしませんが、必要な条文は紹介します。
1、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
900条と901条が規定しているのは法で決められた相続分なので割愛。
要は法律で定められたよりも多く相続した場合、父と第三者は対抗関係になります。
不動産が対抗関係になった場合の原則は?
思い出せなかったら時効成立後の不動産所有権の対抗問題を思い出してください。
そう、登記は早いもん勝ちです。法定を超える相続分の所有権に関しては、登記の早い者勝ちとなりました。
では次。祖父が不動産持ち分を第三者に譲渡した後死亡しました。
唯一の相続人である父が、愛人にその不動産を譲渡しました。
では所有権を持つのは誰?
より生々しくなった?気の所為でしょう。
正解は勿論登記の早いもの勝ちです。
第三者と愛人は、登記の早いほうが所有権を持ちます。
それだけではありません。父と愛人が口約束で譲渡契約を交わしたとします。
でも父が先に登記を備えたら、所有権は父です。
当然愛人は契約違反として損害賠償を訴えることができます。
証拠があるかは知ったこっちゃないが。
浮気が主題の小説じゃないんだけど、とても好きな小説なので紹介。
遺産分割協議と登記
では次の例題
祖父が死亡して、長男と次男が相続しました。
遺産分割協議が成立し、祖父の不動産は全て長男が相続することになりました。
しかし次男が、勝手に自分名義に登記した上、第三者に売却し、第三者も登記を備えました。
長男は登記を備えていません。長男の立場はどうなるのでしょうか?
幸いなことに我が家では長男が鷹揚な方(恩も売っといたが)なので、
長男次男(実際次男は死亡し代襲相続した母&俺)の間で相続の揉め事は起こりませんでした。
あーまた生々しくなっちゃったよ相続の細かいことはまた今度で、ね?
じゃあ答え合わせのため、民法を見てみましょう。
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
条文の通り、遺産分割で全てを長男が相続するとなったならば、
祖父の財産に対して、次男は無権利者です。
相続開始のときにさかのぼりますので、例え次男が登記をしたとしても、
無いものを登記したに過ぎません。
この段階でしたら、長男は次男に登記なしで対抗できます。
しかし、遺産分割で第三者の権利を害することはできない、とあります。
ということは?
遺産分割の効果が制限されます。
法定により相続が行われ、その時点で次男が第三者に売却した、と解釈されます。
なので長男は第三者に対して法定相続分しか所有権を対抗できません。
ここも実は登記の前後が大いに関係しています。
長男が第三者より先に登記を備えたら、遺産分割は正当に効力を生ずるはずでした。
第三者が登記を先に備えてしまったために、取引の安全上、第三者を保護しなければいけない、となったのです。
不動産登記というシステムを知っていれば、長男はこの失態を防げたのです。
民法の基本は「利益衡量」です。当然第三者の利益も考えた条文が作られるのでしょうが、
何度もする例えの通り、私の民法の学習の基本とは「おばあちゃんの知恵」です。
「民法」なんて言葉の持つ権威に壁を作らず、なるほど知ってて助かったラッキーぐらいの感覚で勉強するのがいいと思うのですが…
法は絶対正義、間違えることは許されない、なスタンスの勉強法が私の知る限りスタンダードな勉強に見えて、
そんなこと考えるのは実務に入ってかつ顧客を相手にしてからでいいんじゃね?と思ってますいかがでしょう?
いや試験での間違いは許されないから、そのスタンスの勉強法も正しいですよ。
相続放棄と登記
例題
祖父が亡くなりました。長男と次男が相続しました。
次男は相続を放棄しましたが、相続不動産を勝手に登記し、第三者に売却しました。
長男は登記を備えていませんが、第三者は登記を備えました。
長男はどこまで所有権を主張できるでしょうか?
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
はい今回は第三者保護について、条文は一切触れていません。
で相続人ではない、とみなされますので、長男は登記無く相続分の所有権全てを主張できます。
ちょっと回り道ですが見ておきましょう、相続放棄は取り消せるか?の条文がこちら
相続放棄の撤回は無理なんです。 次の条文がこちら
例えば強迫によって相続放棄をさせられたら、放棄の取り消しは可能ですね。
ただこれは、民法の意思表示の原則中の原則に従った結果でして、
相続の放棄を撤回する事は相当難しい、と思ってください。
何故なら相続の放棄とは、財産ばかりでなく、負債や責任も含めての相続を放棄するからです。
そんな大事な事、ケースによっては第三者が大量に関わってくることに、簡単な撤回の機会を与えては、それこそ取引の安全に影響がありますね?
この記事も最後になりますが、ここで皆さんにお詫びしたいことがあります。
不動産の物権変動の学習ですがまだ終わりませんでした。
あー、アレですよあれ、前回の記事の最後を読んでいただければ。
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