時効ですよたびたび。
前回前々回が消滅時効だったのに対し、今回説明するのは「取得時効」です。
名前の通り取得する制度な訳ですが、今一どころか今二今三ぐらいわかりづらい。
時間が経過すれば権利が消滅する→権利があるのに放っておいたのが悪い。
体感的に分かるのですが、時間が経過する→権利を取得する。
こんな流れがありえるならば、誰だってそしらぬ顔して所有したふりして、「取得」するんじゃないでしょうか。
民法を学ぶにあたって一番最初にとりあげた「利益衡量」、民法の原則です。
すなわち民法とは、社会に対して大きな利益をもたらすために制定された法な訳です。
債権が時間の経過によって失われることが、より大きな利益になるのは分かりますが、
時間の経過によって所有権を取得する→誰かの所有権が失われることが、
必ずしもより大きな利益と言えるのでしょうか。
とまあ小理屈を重ねたのですが、
駆け出しの学習者が小理屈を重ねられるぐらい、時効制度とは民法の原則に対し穴が多い制度なので、
スジ立て理論立て内容に納得するまで吟味を重ねるのではなく、
そういうもんなのね~ぐらいが正しいスタンスかと思われます。
所有権の取得時効
で、そういうもんなのね~の中身がこれ。
1、 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
素知らぬ顔して所有してれば「取得」出来ると言いましたが、そのハードルは決して低くありません。
まず一つ。20年占有したとしても、その期間の長さが問題になります。
子供が大人になり、法を知るようなおっさんがおじいさんになるような年月ですね。
自分一代で取得時効経過のため所有権を取得できたとしても、
それが利益衡量になるかは甚だ疑問な期間ですよね、まその理屈は言わないお約束ですが。
次に所有の意思です。これは主観による「オレのものだから!」ではダメです。
その「権原の性質」により決まります。
権原の性質という言葉だとわかりづらい。んで例に上げると非常にわかりやすいのが「賃貸」です。
賃貸契約して20年間借りて住み続けても、所有権は取得しません。
所有の意思じゃなくて賃貸の意思だからね。
んでここ、賃貸契約では取得時効は生じない、宅建試験で出るから要注目ですよ。
次に平穏、かつ公然です。
無理やり占有したり、隠れて占有しても、取得時効は成立しません。
上に「素知らぬ顔して占有すれば所有権を取得出来る」と書きましたが、
「素知らぬ顔」のレベルによっては、取得時効は成立しません。
利益衡量だなんだ書きましたが、実は取得時効のハードルはかなり高いのです。
実際の問題は、本来の所有者が知らない間にそのつもりもないのに所有権を失う事ですので、
自分の所有物、特に不動産はたまには占有の状態を確認し、時効の更新事由を成立させましょう。
短期取得時効
次に民法162条の2項を見てみましょう。
2、10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
占有の際に善意無過失であれば、今度は10年で取得時効が完成します。
例えば、他人の土地に自分の家の塀を広げたとしましょう。
塀を作った際に相手の土地と知らなければ10年です。相手の土地と知っていれば20年です。
さらに民法第186条
1、 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
占有した時点で善意は推定されるので、悪意を証明するのは占有された側になります。
162条の規定は占有開始の時なので、塀を広げた後に「やべぇ、この土地うちの土地じゃない」と
気づいて、後から悪意になったとしても、10年間で時効取得できるのです。
…さて、1項の20年と2項の10年の規定の最大の違いはなんでしょう?
公然平穏な占有開始であれば、ほぼ2項の時効取得10年が当てはまると思うんだけれど、
占有開始の善意か悪意かが大きな違いです。言葉を変えれば、他人の土地だと知っていようが、
公然平穏と20年占有していれば取得できちゃうのです。
今回の最後に、取得時効の対抗問題を考えましょう。
不動産の所有権は1に登記、2に登記、というぐらい登記こそ全てなのですが、
では甲土地の売買契約を終え登記を備えたAさんと、
甲土地を平穏に占有し取得時効が完成したBさん、どちらが所有権を手にするのでしょうか。
取得時効完成前にAさんが登記を備えた場合は、取得時効完成と共にBさんが時効主張できます。
つまり所有権はBさんです。この段階では時効の方が強いんですね。
そもそも不動産に占有者がいたのであれば、不動産屋はAさんに告知するべきと思いますが、
調べたところ告知義務があるかいまいち不明です。あれ、俺宅建合格した記憶があるが…
競売物件に占有者がいる場合は告知するのですが。
では取得時効完成後ならば?
ここで登記がものを言います。例題ではAさんが登記を備えてますので所有権はAさんです。
ただし取得時効完成後の登記は早いもの勝ちのため、
もしAさんよりBさんが登記が早ければ、Bさんが所有権を得ることになります。
取得時効、まだまだ続きます。
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