質屋さんが集まって年に2回行っていた、「シッチーのチャリティフェア」、15年ぐらい前までは開催のたびに出向いていました。
まあとにかく安い。自分のイメージする「このブランドだったらこれぐらいの値段」を徹底的に破壊してくる。そして当該ブランドへの新たな価値観が植え付けられる程に安い。
といっても実際買ったことは数えるほどです。
質流れ品のウインドゥショッピングなんて、言葉にすると悪趣味ですが、実際行くと楽しいもんですよ。
ボクはブランド信仰なんて無い人間と思ってましたが、建前を除いて実際にカッチョイイ物を目の当たりにすると、こう、触手が、触手が伸びるー!
だったんだけど、15年前ぐらいから外国人が多くなりました。
結果、客層が悪くなりました。
差別の意図なんて全くありませんが、安いとはいえ本来ならばブランド物販売スペースなのに、バーゲンセールに群がるおばちゃん達みたいになっちゃったんですよ。
ボクはある意味悪趣味ですが、ボクの悪趣味の内容に堀田かつひこが描くマンガのような光景をウィンドウつかピーピング要素はふくまれません。
という訳で行かなくなったのですが、今回質権を調べるにあたって久々に開催されるか調べてみたら、今年は例のアレで中止だそうです。
ま、このシッチーのセールのような質屋さんの努力もありまして、
質屋に対する世間の目に、今どきは偏見なんて消え去ったんじゃないかと思います。
話が全く変わりますが、ボクは質屋さんのシステムを中学生ぐらいまで知りませんでした。単なる中古屋さん、古物商だと思っていました。
質屋の中身を知ったのはやはり時代小説を読んでから。
幕末のインフレ下で金に困った武士が、刀を質に入れて当座を凌ぐ~なんてエピソードです。
武士の奥さんが周りの目を憚って質屋に足を運んだり。
で、この場合の武士の奥さんの行為は刀を担保に金を借りる、ってことです。
古物商であれば、刀を売って引き換えに金を手に入れる、のが手順です。
どこが大きく違うかって、刀の所有権は武士にある。
だから武士の面目は保てる、って訳ですな。
質権の内容
現代民法での質権の規定を見てみましょう。
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
占有は質権者にある、というのがポイントですね。
んで期日までに弁済が無かったら、物について優先的に弁済を受けられる的な条文。
これが最初に紹介した、シッチーのチャリティーフェアーの商品、質流れ品になります。
質流れ品の売却代金をもって、貸したカネ、いわゆる債権の弁済を受けられる、のが質屋の流れです。
流れだけ見ると、過去に紹介したアレと同じです。質権は約定担保物権です。
質権者と質権設定者、例えば個人(質権設定者)が質屋(質権者)に、「この時計でいくらまで貸してくれる?」と訪ね、質屋が「1万円」と返答し、合意しました→約定
質屋は1万円を、相手方に貸付け、時計が手元にあります→担保
質屋には時計の占有権があり、1万円の弁済がなかったら、質権に基づいて時計を売却し、優先的に弁済を受けることが出来ます→物権
アラ不思議、同じ約定担保物権としては、抵当権よりもはるかに流れが分かりやすいじゃないですか。
特に約定の辺り。
だから抵当という言葉のイメージが悪いままなんですよ質屋に比べて主に抵当設定する銀行の怠慢じゃない!?
ついでに言えば質流れに比べて競売も世間のイメージ悪いすな。
借金のカタって意味では抵当権も質権も同じなんで、次に約定担保物権として同じ部分を上げていきましょう。
まず、付従性があります。
質屋に物を預けて貸付してもらう行為のどこかに公序良俗違反があれば、契約は無効となって質権(占有と優先的に弁済を受ける権利)は消えますし、
質屋の物を預けて貸付してもらえば、そのお金を弁済しなくてはなりません。
しかしお金の弁済という債務に対して消滅時効が成立すれば、質権は消えます。
次に随伴性があります。
質屋Aに物を預けて貸付金をもらった後、質屋Aが債権を質屋Bに譲渡したら、質権も質屋Bに移動します。
んで質権は移動したんで、質屋Bが質流れの売却代金で優先弁済を受けられるようになります。
抵当権で説明したか忘れた、約定担保物権には不可分性もあります。
何か。時計を質屋に入れて1万円の貸付をした場合、弁済期までに5000円しか弁済しなかったからといって、債務者は時計を半分返して、とはいえません。
債務の全てを弁済しないと、担保権、抵当権や質権は担保となった全体に効力を及ぼす、のが不可分性です。
だから弁済の履行期に5000円しか返してなかったら、質流れしちゃいます
もういっちょ、物上代位性もあります。
借金のカタが滅失した場合等で、滅失保険みたいなもんをかけているなら、保険金も質権者が優先的に弁済を受ける権利があります。
抵当権との違い
約定担保物権として抵当権と同じ部分は、言わば復習です。
大事なのは違い。質権と抵当権の違いを上げていきましょう。
まず、質権は動産と債権にも設定可能です。
動産はまあ質屋に渡して貸付金を得る流れで理解できるとしても、債権に質権とは?
例えば、不動産の賃借人は敷金を払うのが一般的ですが、不動産からの退去時には賃貸人に対して敷金返還請求権をもちます。
この敷金返還請求権に質権を設定することも可能なのです。
同じように例えば売掛金債権にも質権設定は可能です。実際に実行されるイメージは難しいですが、
それを借金のカタとして認めるかは当事者次第。なんたって約定ですから。
次の違いは占有の有無です。こちらは条文を見てみましょう。
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
民法344条 質権の設定
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
まず譲渡出来ないものは質権設定できません。
例えば、気合とか乙女心に質権は設定できません。
これは冗談としても、優秀な頭脳にも質権は設定できません。借金のカタとしてはいけそうな気はしますが、占有が移転しないので無理です。
占有が移転したらグロいですもんねー、じゃなくて。
いやもっと単純に、譲渡禁止の特約がある債権に質権は設定できません。
そして344条、占有が移転して初めて質権が成立します。
時計を質入れしました。質屋は時計を受け取らないことには、質物を売っての優先弁済権を持ちません。
で、次の条文。
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
なんと条文342~345条の4つを使って、占有だ占有だ占有だ占有だと言っています。
特にこの345条で、動産の質権を考えると分かります。
時計の占有が質屋に移転したら、時計の使用は所有権者はできません。当たり前です、文字盤見られないんだから。
というように、抵当権と質権の大きな違いは、占有が移転し、所有権者が所有物の使用収益が出来ない。ことが上げられます。
不動産にも質権の設定は可能です。
抵当権と大きく違い、所有者は不動産を使用できません。建物に質権がついたら所有者はその建物に住めなくなりますね。
の割に抵当権と質権だと抵当権の言葉のイメージのが悪いですよね。
抵当権のほうが設定者の権利が広いのに。
だから銀行の怠慢だと…
不動産の質権
じゃあなんで銀行は不動産に質権設定しないんでしょう?
たとえば抵当権よりも質権設定した方が、融資の枠が大きいですよ~なんて営業できそうじゃあないですか。
それが無理と分かるのが以下の条文です。
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。
第358条 不動産質権者による利息の請求の禁止
不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。
銀行の本業は金利をむしり取ることです。
不動産の使用収益、すなわち不動産業は本業ではありませんし、
質権設定だと利息がとれないのです。
逆に言えば、動産の質権では利息をとれるんですね。
担保とってるのに金利もとれるのです。
そりゃ昔の質屋はイメージ悪いでしょうなぁ、借金のカタをとっているのに悪徳高利貸しってんじゃ、奥方も人目憚るってもんだぁべらんめぇ。
そいつがどうだぃ?今時の質屋じゃそこらの別嬪さんがホイホイ利用していきやがる。ったくこれだから近頃の若ぇもんは…
共通点は江戸弁ってだけですあしからず。
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